釉薬とは?陶器の色や質感が生まれる仕組みを陶芸家が解説
はじめに
陶器を見ていると、つやつやとしたもの、しっとりとしたマットなもの、白や青、茶色など、さまざまな色や質感の器があります。
こうした陶器の表情をつくるうえで、大きな役割を持っているのが「釉薬(ゆうやく)」です。
陶器に馴染みのない方にとっては、釉薬と聞いても「器に色を付けるもの」というイメージが強いかもしれません。
もちろん色を生み出す役割もありますが、釉薬にはそれ以外にも大切な役割があります。
今回は、普段何気なく目にしている器の釉薬について、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
釉薬とは?
釉薬とは、陶磁器の表面を覆っているガラス質の膜のことです。
成形して乾燥させた器を一度素焼きし、その表面に釉薬を掛けて、再び高い温度で焼成します。
焼成中に釉薬が溶け、冷えて固まることで、器の表面を覆うガラス質の層になります。
釉薬の原料には、長石や珪石、石灰など、さまざまな鉱物が使われています。
それらをどのような割合で組み合わせるか、どのくらいの温度で焼くかによって、仕上がりは大きく変化します。
料理を想像して頂くとイメージしやすいかもしれません。例えば、お菓子作りは特に分量や調合によって食感や味が変わりますよね。
釉薬にはどんな役割がある?
釉薬には、器に色や質感を与えるだけでなく、器を使いやすくする役割があります。
陶器の素地には細かな隙間があり、そのままでは水分や汚れを吸収しやすいものがあります。
表面を釉薬で覆うことで、水分や料理の汚れが染み込みにくくなり、日常の食器として扱いやすくなります。
また、表面が滑らかになることで洗いやすくなることも、釉薬を使う大きな利点です。
つまり釉薬は、器の「見た目」と「使いやすさ」の両方に関わっています。
なぜ釉薬にはいろいろな色があるの?
釉薬の色は、単純に絵の具のような色を混ぜて作っているわけではありません。
釉薬に鉄や銅、コバルトなどの金属成分を加えたり、原料の組み合わせを変えたりすることで、焼成後にさまざまな色が現れます。
さらに面白いのは、同じ釉薬を使っていても、焼成する窯の中の状態や温度、釉薬の厚みなどによって色が変化することです。
同じ釉薬を同じ器に掛けたからといって、必ずまったく同じ仕上がりになるとは限りません。
こうした変化は、手仕事の陶器ならではの面白さのひとつだと思います。
つやのある器とマットな器の違い
釉薬によって変わるのは色だけではありません。
光を反射するようなつやのある釉薬もあれば、光沢を抑えた落ち着いた質感の釉薬もあります。
さらには、結晶が現れるものや、細かな貫入が入るもの、複数の色が混ざり合うものなど、その表情はさまざまです。
同じ形の器でも、釉薬が変わるだけで印象は大きく変わります。
やわらかな印象になったり、渋く落ち着いた雰囲気になったりするため、私自身も器の形と釉薬の組み合わせを考えながら制作しています。
私の作品と釉薬
私の作品では、クリーム調のやわらかな色合いを基調とした釉薬を多く使用しています。
そこに、器の縁を中心として黒茶や青色の装飾を加えています。
釉薬や装飾は、焼成中に完全に動きを止めているわけではありません。
高温の窯の中で溶け、流れたり、滲んだり、重なり合ったりしながら、その器だけの表情が生まれます。
そのため、同じ種類の器を並べても、縁の色の流れ方や青の現れ方などには少しずつ違いがあります。
私は、この均一になりすぎない表情も手仕事の器の魅力だと考えています。
一方で、ただ変化が大きければよいとも考えていません。
料理を盛り付けたときに使いやすく、日々の食卓にも馴染むこと。その中に、手仕事ならではの表情が感じられること。
釉薬についても、そのバランスを考えながら制作しています。
同じ器でも少しずつ違うことを楽しむ
作家ものの陶器を購入すると、写真で見たものと色の濃淡や模様の出方が少し違うことがあります。
これは失敗や不良ではなく、土や釉薬、炎などが関わって生まれる自然な個体差であることも少なくありません。
もちろん、作り手として一定の品質に揃えることは大切です。
そのうえで、一つひとつにわずかな違いが残るところに、手仕事の器ならではの面白さがあると私は思っています。
お店や展示会で器を選ぶときには、ぜひ同じ種類の器をいくつか見比べてみてください。
色の流れや釉薬の表情を比べながら、「これが好きだな」と思える一枚を探すのも、器選びの楽しみ方のひとつです。
まとめ
釉薬は、陶器の表面を覆うガラス質の膜で、器に色や質感を与えると同時に、水分や汚れを染み込みにくくする役割を持っています。
使う原料や焼成温度、窯の状態、釉薬の厚みなどによって、その表情はさまざまに変化します。
普段何気なく見ている器の色も、実は土と釉薬、そして焼成によって生まれたものです。
少しだけ釉薬について知ってから器を見ると、「どうしてこの色になったのだろう」「この流れ方が面白いな」と、これまでとは違った見方ができるかもしれません。
器を選ぶときには、形や大きさだけでなく、ぜひ釉薬の表情にも目を向けてみてください。
